衆議院議員(5期) 神奈川第5区(横浜市戸塚区・泉区・瀬谷区)

「防衛」を現実的に考える ~ 「防衛力強化有識者会議」の議事録を読み解く ~

先日、政府が防衛力強化有識者会議の議事録全文を内閣官房のHPに公開しました。発言者も明らかにし、すべてを公にするのは異例だという指摘もありますが、私は評価したいと思います。
総理や大臣のみならず、有識者がどのような議論を展開しているか具体的に国民に示し、知ってもらうことは、日本の安全保障の現状の理解のためには有意義です。
そこで、この会議で論じられていることの中で私が重要だと考える点をいくつか挙げたいと思います。

■ 日本が最も懸念すべきは中国の脅威
脅威を意識し、中国による台湾の武力統一、つまり台湾有事に準備すべしということです。
中国からのサイバー攻撃が毎日仕掛けられているということをご存じでしょうか。その状況下で日本がなさねばならぬのは台湾有事で国と国民を守れる防衛力を備えることだと指摘しています。
そのために、自衛隊がどこまで強化されねばならないのか、ここを国民に示し理解を得る必要があるということです。
以前、安倍元総理が「台湾有事は日本の有事」と指摘した際、「台湾有事はあくまで台湾の事で、決して日本の事ではない」と批判されました。しかし、今回の有識者の議論を見れば、その批判の認識で日本を守れるのかと疑問に思うのではないでしょうか。

■ 防衛産業の育成が必要
日本の安全に関する装備は、理想から言えば、海外の企業に頼らず日本国内で賄うべきです。
「防衛装備品は、研究開発から製造、修理、弾薬の補給まで実行しているのが防衛産業だ。防衛産業はまさに防衛力の一部」「諸外国は政府と企業が一体となって防衛装備品の輸出を拡大している。研究開発や公共インフラと同様、防衛省に関係府省を加えた体制で取り組む必要がある」という発言が有識者から出ています。
そして「防衛装備品の輸出拡大を日本の安保の理念と整合的に進めていくための対策が検討されるべき」との指摘もあり、これらの議論が礎となり、今通常国会で「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」が提出されることになったと考えています。
この法案は今まで日本に存在しなかった「産業」としての防衛産業を明確化し、国がサプライチェーンリスク(経済安保に連なります)を直接把握し、防衛産業の基盤維持・強化を目指すものです。
今まで装備品に関する業務をしている企業はあっても、あるものは国土交通省、またあるものは経済産業省と、防衛と関係の無い企業と一緒のくくりにされていました。今回初めて防衛産業として、通常よりセキュリティを強化しなければいけないこの分野に、特別の対策を施すようになります。
例えば、そういう企業が撤退するときには国がその施設を保有するなどの関与が可能になったり、それらの企業の民間人でも、機微情報の保全が法律上の守秘義務として課せられます。また、日本政策金融公庫からの貸付に関しても配慮がなされるという内容です。
こうした有識者会議の提言・指摘が国政で活かされているのを改めて実感しました。

■ 研究開発体制の遅れと人材不足
日本では長い間、防衛技術の研究を避ける風潮がありました。そうさせてきた最も大きい要因は日本学術会議の存在だと思います。
直近では平成29年に出された声明です。「以前発した声明を継承する」「学術の健全な発展を追求すべき」という表現で、明確に防衛技術の研究を否定しました。
しかし今は、先端技術がデュアルユース(軍民両用)に使われ、最先端の文化や商品が生まれています。インターネットはその典型ですし、ドローン、AI、ロボット技術も同様。
そのため、この有識者会議では「軍民両用技術の研究を避ける傾向を転換する」「安心して安全保障上の研究ができる特別の空間を大学の内と外につくること」が必要だと指摘されています。
また、これら基礎科学研究が経済競争力強化に繋がるとの議論もされており、ここの投資を増やすべきだと数人の有識者が主張しています。
この「避けてきた」結果として、この分野の人材が極めて不足している現状に繋がっています。特にサイバー分野では危機的状況だと言われています。自衛隊でもサイバー防衛隊を立ち上げ、先日私が視察した久里浜の駐屯地では来年度から教育・育成を本格的に行うことにしましたが、急を要する事案です。
先日、台湾の半導体部門の仕事をしている弁護士からお話を伺いましたが、「台湾では、理工系の学部が人気。アカデミア分野、経済界から評価され、収入も高額ですから。しかし、日本は文系学部が圧倒的に多く、技術者が少ない。熊本に工場を作るTSMC(台湾の半導体メーカーで世界トップクラス)の仕事もやっているが、一番困っているのは日本の人材不足で、世界から連れてこなければならない」と言っていました。
日本でも理工系の学部を増やす方針を固め、進めていきますが、教える側の人材の確保や何よりアカデミズムや社会において技術系の人間の評価が上がらなければ、この分野を目指す学生は増えないと思います。
こうしたなか、変化の兆しも見えてきています。その一つが日本学術会議の方針転換。
今まで防衛省には協力しないが、軍民融合で軍事研究も進めている中国科学技術協会とは協力促進を行ってきた日本学術会議が、昨年、軍民両用技術研究を日本においても事実上容認するという見解を示しました(菅政権時に学術会議のあり方が国民に明らかになり、問題点が指摘されたことが今回に繋がっていると思います)。
これによりこの分野の研究者が後ろ指をさされることなく研究できるので、研究者の数が増えることを期待したいです。

■ 現実的な議論こそが必要
先日の総理に対する代表質問で、ある政党の党首が「平和を望むならば、戦争の準備ではなく、平和の準備を!」と政府の方針を批判していました。しかし、今回の安保拡充も「専守防衛」を旗印に進めているものです。
「平和の準備」が具体的に何を示すかわからないなか、その議論に惑わされている余裕はありません。現実を見据えて判断していかねばならないと、改めて思います。

【有識者会議の報告】

内閣官房HP

議事録要旨(読売新聞)

自衛隊久里浜駐屯地内に新設されるサイバー人材の教育機関(現・陸自通信学校)

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さかい学プロフィール

坂井 学(さかい まなぶ)

衆議院議員(5期) 神奈川第5区
(横浜市戸塚区・泉区・瀬谷区)
前内閣官房副長官
自民党横浜市支部連合会会長

言いだしっぺです

こんにちは。「言いだしっぺ」のさかい学です。 初めて選挙に挑戦して以来、ずっと続けているのが朝の駅頭活動です。 ここで私は日々の政治課題に対する私の考え、思いをお伝えしています。と同時に、皆さんからのお話をうかがう場でもあります。意見集約型の政治を目指す私の、大切なフィールドです。

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