ここに、いくつかの事件を挙げます。
令和元年6月。鳥島南西沖の公海上において、小型船舶を利用し、国籍不明の船舶から覚醒剤を受け取り、静岡県南伊豆町の海岸に陸揚げした中国人7名を逮捕すると共に、過去最大量となる覚醒剤約1㌧を押収。
令和5年2月、今治沖にて、日本籍貨物船同士が衝突、うち1隻が沈没し、直ちに救助活動が行われ、沈没した船の乗組員5名のうち4名を救助(うち1名死亡)(残る1名は行方不明)。こうした救助は映画で有名になった『海猿』の活動です。
9年ほど前には、小笠原諸島周辺海域等に中国サンゴ漁船が大量にやってきて、違法操業を行いました。水産庁や東京都と共に連携し、巡視船や航空機を集中的に投入した特別態勢で監視・取締りを実施し、10隻を逮捕。そのうち、領海内で違法操業を行っていた4件は国内で裁判となり、漁具没収と罰金が課されました。他の排他的経済水域内で違法操業を行っていた6件は国際条約での取り決めにより罰金を支払わせました。
これらはすべて海上保安庁の実績の一部です。海上保安庁というと、尖閣諸島がらみで頻繁に報道されますが、かなり幅広い業務を担っています。主な業務だけでも、領海警備、治安の確保、海難救助、海上防災、海洋調査、海上交通の安全確保、海洋環境の保全、国際連携協力などが挙げられます。
■ 海保の沿革と組織
元々、海上保安庁は昭和23年5月1日、海上の安全や治安の確保に関する行政事務を一元的かつ横断的に実施する機関として、軍隊ではなく米国沿岸警備隊に倣い、創設されています。
海上保安庁法第25条には、「この法律はいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と記され、「海の警察・消防」であり、軍ではないと明確にされています。
というのも、第二次世界大戦前は海上保安庁なる組織はなく、日本海軍がすべて担っていたということも、その違いをはっきりさせるために必要だったと言われています。
海上保安庁では、日本周辺の海域を11に分けて管轄しています。注目されている尖閣諸島は第11管区(沖縄より南の海域)で、横浜は第3管区(茨城~静岡の沿岸海域、沖ノ鳥島、南鳥島周辺海域)となります。そして第3管区の中枢機能である海上保安本部が置かれています。
その他、出先機関となる海上保安部が全国に71カ所、それより小規模の出先機関である海上保安署が61カ所など、全国に150カ所以上の拠点を展開しています。
■ 緊迫する日本海域
特に平成24年の尖閣諸島の国有化以後、この海域に中国公船などの航行が多くなって注目されていますが、この第11管区には巡視船14隻相当による尖閣領海警備専従体制を整備し、警戒に当たっています。全国で73隻しかない大型巡視船12隻、しかもうち10隻は新造を配備しており、力の入れ方がわかるかと思います。海上保安庁全体では航空機94機(飛行機36機、ヘリコプター55機、無人航空機(リース)3機)、船艇は476隻を保有しています。
とはいえ、中国海警局は大型巡視船の数で言うと157隻で、日本の倍以上を保有している上に、尖閣海域への進入件数は令和以降特に増え、1年365日のうち、330日以上になります。つまり、台風などの荒天以外はほぼ毎日確認されていることになります。
複数の船で入ってくることが多く、海上保安庁は必ずその中国公船の数よりも多い船で警備に当たっており、現場はかなりの緊迫感だということです。
中国だけでなく、日本近海の昨今の緊迫度はとみに上がっており、日本の海の安全安心のため、今まで以上の海上保安体制が必要となってきています。
■ 6つの能力強化策
そのため政府は平成28年に「海上保安体制強化に関する方針」を決定しました。これは特にハード整備に焦点を当てたもので、この方針に沿って令和4年度末までに大型巡視船21隻、航空機26機、大型測量船2隻、大型練習船1隻などの整備を行ってきています。
また、令和4年12月には「海上保安能力強化に関する方針」を決定し、6つの海上保安能力を一層強化することにしています。そしてハード整備に加え、ソフト面、つまり、ノウハウや調査・研究も含めた能力強化を加えた議論をしています。6つとは、「尖閣領海警備能力」「広域海洋監視能力」「事案対処能力」「連携・支援能力」「海洋調査能力」「業務基盤能力」です。
当然のことながら、これだけ充実させていくとなれば予算・人員も増強されてきています。平成28年度は1877億円でしたが、令和5年度は2431億円、来年度の要求は2759億円で出しています。また、人員定数も平成28年度13,522人だったものが、令和5年度には14,681人まで増やしています。
しかし昨年、方針の改訂が行われ、今後の目指していく方向が決まったなかでの一番の課題は「人員確保」です。昨今の人手不足のなか、海上保安庁もご多分に漏れず苦労しているとのこと(※1)。来年度への純増も150人ほどを希望しており、求められるものが増えているので、なんとか確保できるよう私たちも支援していきたいと思います。
補足)タイトルの「海域面積第6位」は、領海と排他的経済水域を合わせた面積です。
※1)スマホでの通信が困難なことが、若者が船上の仕事を選ばない大きな理由になって久しいですが、衛星などを使ってWi-fiが使える環境の整備も進めているとのことです。
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