今回の菅義偉総理の訪米に、内閣官房副長官として同行させていただきました。歴代、衆議院の副長官が北米を担当することになっています(参議院はロシア、北方領土を担当)。
今回はバイデン政権が発足し、バイデン大統領が対面で首脳会談を行う最初の相手に日本の菅総理を選んだということで、大変注目された会談であったと思いますし、その会談に同行できたことは私自身も大変勉強になりました。本当に感謝です。
■共同声明作成の舞台裏
副長官の最も大きな役目は同行記者団へのブリーフです。
記者のみなさんは会談の現場に立ち会えないので、そこに立ち会っている私の方から、その内容について説明することになっており、その説明をブリーフと呼んでいます。記者団への説明の中身に基づいて日本のみなさんへの報道がなされることもあるので、かなり重大な使命だと自認しています。
今回は会談後、両政府が合意した内容を文章として出す「共同声明」が作られました。実はこの文章は、一つの用語や単語の選択までとても神経をすり減らしながら丁々発止と渡り合い、相手政府担当者と交渉しています。
今回も最後の最後まで総理が大統領と会談する当日の朝にもまだ詰めの作業をやっていた状態でした。内容的には共同記者会見時には一致していたわけですが、発表するまでの手続きが間に合わず、文書でのお披露目はできませんでした。
いろいろな思惑が絡んでか、日本の報道にも声明がまだ決まっていない段階でありながら、「この言葉が入る」とか「こういう記述がある」という種類の記事が載りました。中には事務担当者同士ではかなりやり取りがあってまとめるのに苦労しているのに、会談の場で、首脳同士であっさりと合意することもあります。
■ブリーフの意義
ブリーフにはこのように事前に出回ってしまっている憶測記事で、誤ったものを訂正してもらうという役割もあります。今回も交渉している担当者が「今、目の前で交渉しているのに、なぜ、このような記事が出るのか。とても困る」と言っているのを聞きました。
このブリーフですが、結果として政府を代表しての見解にもなってしまうので、大げさに言えば、国益を左右することにもなりかねません。公表の仕方によっては、相手国の信頼を失うことになる可能性もあります。
■先人たちの経験と工夫
昨年の10月のベトナム、インドネシアの訪問時もブリーフを行いましたが、自分自身でも満足のいくものではなかったので、今回はもっと工夫しなければと思っていました。
そんな時、官房副長官経験者の先輩方からお声かけいただき、配慮すべき点や心構えから対応の仕方のノウハウまで、先輩方の経験を踏まえたご指導をいただきました。
やはりそれぞれご苦労されて、そこからさまざまな工夫をされていたのだということが分かったと同時に、先輩方の思いに感じ入るところが多々ありました。また、内閣官房副長官という役割に強い思い入れを持っているということも感じます。
派閥など関係なく、国益のためにわざわざ後輩に大事な経験を伝えようとしてくれる先輩がいるというのが自民党です。私もこのお役目を懸命に務め、そこで得るであろうつたない自分自身の経験を、機会があれば次の世代に生かしてもらえるようにしたいと考えています。
■外交は人間力
今回の訪米で改めて実感したことがあります。それは、国と国との外交とはいえ、突き詰めればやはり人間と人間との信頼感となり、「人間力」が大きく左右するということです。オバマ大統領も同様のことをおっしゃっていたと聞きました。
今回の会議でも、総理と大統領の1対1の会合の時は、家族についてなど私的な話もしたそうで、お互いがどういう人間かを知り、分かり合うための時間になったと聞きました。
バイデン大統領は執務室のあちらこちらに飾ってある家族写真を菅総理に見せ、一人ひとりについて説明してくれたそうです。その結果、話が盛り上がり、用意してもらっていた昼食のハンバーガーには手をつけずじまいだったそうです。
そのバイデン大統領を、菅総理は「家族思いで懐の深い人」と表現していました。やはり厳しい選挙を勝ち残り、一国のトップになる人というのは大した人で、何か違うもの、秀でたものを持っていると今回も感じました。その「大した二人」がそれぞれの国を背負い、語り合うわけですから、雑談すらも雑談に終わらないと思います。
離日前、訪米の準備を進めていた総理が、訪米が近づいた時、「(準備を進めていくと)平常心になっていくな」とつぶやいたのを思い出しました。大した人です。そしてその政権をこれからもしっかりと支えていきたいと思います。
会談から一夜明けて、リンカーンメモリアルを散歩。今朝は起こされるまで爆睡していたという総理。ホント、大した人です。