先月30日に高市総務大臣に、私が事務局長を務める自民党情報通信戦略調査会で「SNS上の誹謗中傷への対策に関する申し入れ」と題する提言を渡しました。
この案件は長らく問題視されていたことでした。しかし先日起きた、SNS上での個人に対する攻撃を苦に自ら生命を絶ったのではないかというニュースをきっかけに、改めて注目されました。
SNSは匿名で投稿ができ、自分の身元が明らかにならない、つまり自分が批判される立場になることはないということから、投稿の内容もエスカレートしていく傾向があります。
今回のニュースを機に、自民党内にはこの問題に対処するためのプロジェクトチームも立ち上がりましたが、私の所属する調査会は従前より議論していたので、今回はそれをとりまとめる形で総務大臣に手渡しました。
■ 誹謗中傷対応の現状
現行の制度下では、3回裁判所に届出が必要です。
まず、被害者がSNS事業者等にIPアドレスやタイムスタンプを開示するよう裁判所に請求を出し、裁判所の判断を経て、次にここで開示されたIPアドレスなどを用いてアクセスプロバイダー(携帯電話のキャリアなど)に氏名・住所を開示するよう求める請求を裁判所に出します。
その後裁判所の開示判断により発信者の氏名・住所などを特定し、3度目にしてその発信者への損害賠償請求訴訟を裁判所に申し立てることができます。
大変手間と時間と費用が掛かります。結局この方法を取らずに泣き寝入りする場合が多いと報告がありました。
それならば裁判所を通さずに、氏名・住所が特定できるようになれば、すぐに損害賠償請求訴訟に行けるのではないかと思います。
しかし、今回、私たちの提言でも、結局裁判所の判断をかませる仕組みを変えることはしませんでした。この問題の難しさは、実はここにあります。
表現の自由と通信の秘密という憲法上の規定と密接に関係があるからです。
通信の秘密とは、通話の内容やメールの中身だけではなく、「通信したかしなかったか」ということも秘密にされるべきとなっているので、そこでプロバイダーが「氏名」「住所」「発信時間」などを勝手に公にすることはこの条文に抵触することになります。
■ 誹謗中傷か、批判か
また、弁護士へのヒアリングで、今、悪徳業者が自分の会社や商品、サービスのネット上の批判(低評価)を誹謗中傷と称して、プロバイダーに対し情報の削除や投稿者の氏名公開などを求めてくることが増えているそうです。
そもそも「宣伝に偽りあり」の悪徳商売なので、その批判は一般の消費者には有益な情報です。その場合でもその業者がちゃんとしたところかインチキかを判断しなければなりません。
批判情報が削除されたり、またそういう投稿をした人を業者が突き止めやすくすることは、有益な情報が隠されたり、投稿した人が嫌がらせをされることなどが想定され、次の被害を生むことになりかねません。
本当に被害者なのかどうかは個別の案件ですべて変わってくるので、今回もやはり裁判所を介在させて、判断をしてもらうしかないということに整理しました。
それでも今回は、今まで氏名・住所を得るまで2回裁判所が入っていたものを1回で済ませられるように、迅速化を提言しています。
■ 投稿者と相談機関への啓発活動
また、誹謗中傷の投稿が場合によっては法に触れることになる、ということを知らずに投稿している人が少なくないことも事実です。
「軽い気持ち」で投稿する人が一定程度いるのであれば、刑事事件にもなることもあるということもしっかり啓発する必要があるという議論が出ました。
そして、このような問題が起きたときに被害者が最初に相談しに行くであろう警察も、ネットという最近の案件に慣れておらず、必ずしも適切な対応が取れていないのではないかという指摘もありました。役所間をたらい回しにされたという方もいるようです 。
■ 迅速に判断するために
被害者がまず望むのは、中傷投稿の少しでも早い削除です。いったん拡散されてしまうとそれを止める手立てがありません。プロバイダーには明らかに誹謗中傷である投稿は削除できることになっていますが、逆に誹謗中傷に当たらない投稿を削除してしまうと、先述したように法に触れることになり、罰則が科せられます。これによりプロバイダー自身の判断において削除することをためらうケースもあると聞いています。
この状態を改善するためには、プロバイダーが投稿を削除するときに、その判断を直ちに下せるように相談機関の設置や実際の事例を多く集めて参考にすることが考えられます。
実際に民間でもそういう動きが出てきていると、ヒアリングでも聞いていますので、政府としてもこういう取り組みを応援してもらいたいと盛り込みました。
■ 監視と法改正
先述したように、この問題は一発ですべて解決するというような特効薬的な方法がありません。
裁判所をかませた法的な手順をできる限り迅速に進めるようにするとともに、SNSの使い方、投稿について啓発活動を行い、プロバイダーなどの民間事業者にも連携して動いてもらうという「合わせ技」で対応していくしかありません。
そしてこの提言の一番大事なところは、合わせ技だからこそ今後もそれぞれの施策や取り組みが効果を発揮しているかどうかを注視していくところにあります。
とにかくネットに関するものは新しいサービスや現象が出てくるので、日頃からその動向を注視してなるべく困ったことが起きないように常に意識しておく必要があります。
定期的に現状の報告を求めながら実際に機能しているかどうかを確認し、悲惨な事件がこれ以上生まれないようしっかり監視して、法改正も含めて必要な措置を取っていきたいと思っています。
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