TPPで輸出は伸びるのか?~日本にメリットのない枠組み~

2011年11月01日

「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定・Trans-Pacific-Partnership)に日本が参加する」と、今月行われるAPECで総理が表明したいということで、現時点ではてんやわんやの状態となっています。しかし、調べれば調べるほど、今回の枠組みのTPPには参加してもメリットがないと思わざるを得ません。

■参加のメリットは?
「TPPに参加して輸出が伸びるというけれども、どこに売るの?」という質問を受けました。これが最も本質を突いている疑問だと思います。
TPPは全世界が入っているものではありません。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、チリ、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムの9ヶ国です。そして、そのうちのアメリカ、ニュージーランド、マレーシアを除く6カ国とは、日本はすでにFTA(Free-Trade Agreement)という2国間協定に合意しています。つまり、改めて別の枠組み=TPPに参加しなくても、日本の納得できる形で貿易は行えるのです。
では、日本を入れた10カ国になることでのメリットはあるのでしょうか?参加国の経済規模をGDPで比較すると、全体を100とした場合、アメリカが67、日本が24で全体の9割超。オーストラリアが4.7で、その他7カ国を合算しても4.2にしかなりません。
ということは、FTAに合意している国々とはその内容で貿易できるのですから、参加後の日本の伸び分はまだ合意していない3カ国向けだけということになります。しかも、そのうちのニュージーランドとマレーシアの経済規模は先述の通り4.2に入っている程度のものですから、大幅な増加は期待できません。とすれば、参加国の中で期待できる輸出先はアメリカだけ。ということは、アメリカとFTA交渉をするのと同じ意味合いしか持たないことになります。
しかも、そのアメリカは不景気でデフレになっていて失業率が10%近くあり、購買意欲が乏しい状況です。また、例えばホンダはアメリカで販売している車の8割をすでに現地で生産しています。そういうアメリカを相手に、簡単に輸出を伸ばすことができるのでしょうか?
オバマ大統領は「(TPPで)5年間に輸出を2倍に拡大させる」と明言していますが、どこの国に売り込んで2倍にするのでしょうか。先述の経済規模からいっても、日本以外にはありません。それも、ドル安という一種の為替ダンピングによって、日本円での価格を下げて売り込もうとしていると言います。昨今の円高は、まさしくこのTPPの動きと軌を一にしています。

■不透明な内容
また、TPPに参加しないと世界に乗り遅れるという意見がありますが、本当でしょうか。今回の参加国をみても、世界で急成長しているアジアの中でもとりわけ大きな経済力を持った中国、韓国、台湾、インドネシア、タイ、インドなどが入っていません。
さらに、最近合意された米韓FTAの中身を見てみると、「一方の国の企業が進出する際に、面倒な手続きや規制などの“利益を害する仕組み(非関税障壁)”があれば相手の国を訴えて賠償金がとれる」という条項があります。また最恵国待遇条項や「一度緩和したら二度と規制できない」という条文もあります。こうしたことは当然、今議論しているTPPの交渉にも入っていると考えるべきです。だとすれば、国内法がTPPに基づく訴えによって変更させられるということにもなりかねません。

■問題は日本政府の姿勢
何より問題なのは、日本政府に戦略がないことです。アメリカは明確な戦略を持ち、わずか4ヶ国の小国が始めたこの協定に、昨年早々に乗り込んで来て主導権を握っています。他の8ヶ国もそれぞれがそれぞれの国の戦略に沿って交渉しています。まったく戦略の無い日本が交渉に参加して、かなうわけがありません。
それに、参加国は交渉を9回も重ね、終盤に来ている状況です。日本のマーケットに食い込みたい9ヶ国を相手に、今さら日本が参加して、一体どこの国が日本の主張に同調してくれるのでしょうか。ましてや「離脱もあり得る」と公言している国の主張を、まともに取り上げる可能性は皆無といえます。腹に隠しておかねばならないことを公言し、行動の選択肢を狭めている政府は、外交というものがわかっていません。

■情報と分析が急務
TPPによって農業が困難さを増すことはもちろん、安い国内向けの製品が入ってきて、国内需要向けの産業は大打撃を受けますし、デフレ圧力も大きくかかって来ます。低賃金労働を輸出したいベトナム、マレーシア、チリ、ペルーなどからも労働力が入ってきて、一層デフレに拍車がかかる可能性もあります。
今の参加国におけるTPPでは日本にメリットがなく、頼みの輸出も大きな期待ができないとなれば、意味がないと思われます。
いずれにせよ、今は情報やシミュレーションが少なすぎる状況なので、分析・検討を行い、日本の戦略をしっかり立てた上で日本のメリットを確認することが、交渉のテーブルに着く最低条件であり、今は時期尚早だと言わなければなりません。